オンボーディングとは、組織に新しく加わった社員を有用な人材に育成する施策であり、早期離職を防止するためのものです。近年では、仕事に対する価値観の多様化やテレワークの導入などに対応するため、オンボーディングの見直しを進める企業が増えています。
本記事では、オンボーディングの言葉の意味やメリット・事例などを解説しています。自社の育成施策の改善や導入を検討する際に、参考にしてください。
オンボーディングとは
オンボーディングとは、新たに採用した社員に対する教育・育成プログラムの1つで、一般的な研修やOJTとは別に行われます。新入社員や中途入社社員が業務や職場のルールに慣れるためのサポートや研修を提供することで、定着率を高め、早期に活躍できるようにすることが狙いです。
オンボーディングの目的
オンボーディングの主な目的を3つご紹介します。
早期戦力化
新たに採用された社員には、職場のシステムや社風など多くの知るべきことがあります。しかしながら、これらに適応することは容易ではありません。そのため、新しい社員が組織にスムーズに順応できるよう支援する必要があります。オンボーディングは、このようなサポートを行うことで早期に活躍できるようにする目的があるのです。
離職防止
早期離職の主な原因は、業務内容や人間関係の不適合ですが、実は、業務の目的ややりがいの理解不足、職場でのコミュニケーション不足である場合も少なくありません。
オンボーディングでは、新しい社員のモチベーションを高め、面談やミーティングなどの場を提供することで、現実と理想のギャップを調整することも目的としています。
部署間での教育格差解消
オンボーディングの重要な目的の1つは、部署やトレーナーの違いによる人材育成の格差を最小限に抑えることです。OJTや実習では、トレーナーのスキルや資質が大きな影響を与えるため、人事部は計画的なオンボーディングを行うことが欠かせません。また、全社員向けのコンプライアンスや企業倫理などの教育に関しては、外部研修機関を活用することもできるでしょう。
オンボーディングを実施することで得られるメリット
オンボーディングを実施することで、企業側と従業員側の双方にとって得られるメリットがあります。
企業のメリット
まず、オンボーディングを実施する企業のメリットをご紹介します。
企業が新しい社員を採用してから、彼らが成果を出すようになるまでには時間が必要です。その後、生産性を発揮できるようになる段階での離職は、企業にとっては大きな損失となります。そのため、オンボーディングにより、従業員の定着率を高め、早期離職を防ぐことで、採用・人材育成コストを削減することができるでしょう。
また、適切なオンボーディングが行われれば、新しい社員が能力を発揮するまでの期間が短縮されます。このことにより、早い段階で、新しい社員は企業の業績に貢献することができ、指導役となる社員は本来の仕事に集中できます。その結果、企業全体の生産性が向上するでしょう。
従業員のメリット
従業員は、採用後オンボーディングによって他の社員と交流したり、メンターに指導を受けたりすることで、自分に期待されていることを実感し、モチベーションが向上するでしょう。
さらに、組織内での情報共有が促進されることで、社員同士が支え合い、組織の結束力が高まります。結果として、所属する組織に対する愛着心が生まれ、エンゲージメントも向上するでしょう。
オンボーディング実施の方法
オンボーディングは従来の新人教育よりも幅広い内容をカバーするため、人事担当や現場の管理職は、しっかりとプロセスを立てて取り組む必要があります。
目的の設定
ここでの目的とは、オンボーディングにより新しく入った社員が企業の文化や価値観を理解したうえで、どのようなスキルを身につけ、どのように貢献することを期待しているかという、目指すべき状態のことです。
企業によって価値観や求める人材が異なるため、教育担当者は期間内に何を伝えるかを整理して理解し、適切に伝えられるようにしましょう。この際には、業務知識だけでなく、情報提供と価値観共有も含めて考慮することが大切です。また、研修だけでなく配属先での教育についても指針を立てておくとよいでしょう。
環境の構築
新しい社員が企業の文化や価値観を理解し、適切なスキルを身につけて活躍するためには、コミュニケーションが欠かせません。このため、最適な環境を構築することが重要です。1on1やメンター制度だけでなく、社内ポータルやSNSなどのITツールも活用するとよいでしょう。必要に応じてこれらを複数組み合わせ、自社に合うように選択することが大切です。
また、新しい社員が会社に慣れるまで、オンボーディングは継続的に実施する必要があるため、チームの受け入れ環境や研修後のフォローアップについても考えておくとよいでしょう。
プランの作成
オンボーディングでは、入社当日、1週間、1か月、半年後といった各ポイントで達成すべき「あるべき姿」を設定し、その達成に向けた具体的なプランを作成する必要があります。プランのなかで、短期的な取り組みや長期的なもの、いつ実施すべきかをタイムラインに沿って設定しましょう。これにより、スムーズなオンボーディングが実現できます。
プランの見直し
作成したプランは、人事部門や管理職だけでなく、オンボーディングに関わる全社員と共有し、理解を得ることで、スムーズに新しい社員の受け入れが行われるようにします。特に、新しい社員を迎える現場の全員がプランを把握し、実行するうえでの納得感を持つことが重要です。全社員と共有し、必要であればプランの見直しも行うようにしましょう。
実施と振り返り
オンボーディング実施にあたっては、最初はうまくいかないこともあるので、課題点を記録しておくことが重要です。また、最初は教育体制が整っていないため、プランがスムーズに進むまで、新しい社員に不安を与えないよう適切な情報伝達を行い、納得感を持って参加できるようにしましょう。
実施後は、事前に定めたポイントで振り返りを行います。その際、新しく入った社員も含めた関係者全員の意見を聞きましょう。前もって評価基準を設定しておくことで、評価が明確になり、改善策を検討し、次回に活かすことができるのです。
オンボーディング実施のポイント
次に、オンボーディング実施のポイントについて解説します。
人事部が信頼関係の土台を作っておく
新しい社員が疑問や不安に思っている企業情報を開示することで、信頼関係を築き、その後の成長によい影響を与えることができます。入社前に人事担当者とコミュニケーションをとることは、オンボーディングの重要な一部であり、将来に大きな影響を与えられるでしょう。
教育体制を整備しておく
効果的なオンボーディングのためには、適切な教育体制を整備しておくことが重要です。たとえば、テレワークでオンボーディングを行う場合、ビジネスチャットツールやWEB会議システムの導入が必要になります。入社研修を自社に合う内容に改善することや、外部のオンライン研修を利用することも有効な方法でしょう。
目標に関してスモールステップ法の導入
スモールステップ法は、目標を小さなステップに分けて達成していく教育手法です。学校教育や子育ての分野で使われていますが、オンボーディングでも効果的です。
新しい社員は、結果がすぐ出ないものに取り組むことでストレスを感じ、やる気が失われることがあります。そのため、オンボーディングでの目標に関してスモールステップ法を導入することで、効果的に新入社員のサポートをすることができるでしょう。
メンター制度導入の検討
メンター制度とは、新入社員に近い立場の社員がサポート役になる制度で、業務以外の悩みも含めてフォローを行います。多くの企業では、早期離職を予防し、成長を促進するためにオンボーディングの補助制度として導入しています。このような制度の導入も検討してみるとよいでしょう。
オンボーディングで参考にすべき成功事例
ここではオンボーディングの成功事例をご紹介します。以下のような一般的な取り組み事例を参考に、自社のオンボーディングについて検討してみてください。
GMOペパボ株式会社
部署ごとにオンボーディングを実施する企業は珍しくありませんが、GMOペパボ株式会社でも同様に取り組んでいました。しかし、この方法では社員の企業への帰属意識が十分に育まれないという問題があったため、同社はオンボーディングを社内全体で共有する取り組みに切り替えたのです。
具体的には、新しい社員や教育担当者が自由にコミュニケーションできるチャットルームの開設などを行いました。これにより、新しい社員を育成するために、部署の枠を超えて全社員が協力し合う社風が、企業全体に浸透するようになりました。
日本オラクル株式会社
オンボーディングを全社員の仕事として捉え、取り組んでいるのが、日本オラクル株式会社です。入社後、最初の1か月で会社に対する印象が決まると考え、同社では営業社員向けに「5週間研修」を実施しています。
また、現場のOJTでは上司だけでなく、「ナビゲーター」や「サクセスマネージャー」という専任者がサポートする環境を整えているそうです。
キユーピー株式会社
キユーピー株式会社では、工場で働く社員たちがスキルアップする機会を平等に提供するため、3年間のオンボーディング期間を設けています。業務と並行して行えるように、外部機関のeラーニングを活用しているのです。同社はeラーニングにより、以前は不十分だった基礎教育を充実させることができています。
また、eラーニングは、個人のスケジュールに合わせて自己学習ができるため、集団研修の実施が難しかった企業に適しているでしょう。さらに、受講者の状況を定量的に管理できるというメリットもあります。
まとめ
新しく入った社員が能力を発揮し、安心して働ける職場環境をつくるためにも、オンボーディングは重要です。全社員の協力が必要な取り組みであるため、一度にすべてを実践するのは難しいかもしれません。しかしながら、自社で取り入れられる施策からでも少しずつ進めてみてはいかがでしょうか。
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